自動車メーカー各社は、自動運転技術を研究し続けています。自動運転技術は乗用車だけでなく、トラックにおいても将来的な普及が期待されています。その一方で、将来的にトラックを運転するドライバーがどうなるのか、不安視する声も少なくありません。
本記事では、自動運転トラックの現状と出現の背景、働き方の変化や自動運転トラック普及後のトラックドライバーの仕事について解説します。現在トラックドライバーとして働いている方はもちろん、これからドライバーとして働こうと思っている方は、ぜひ参考にしてください。
自動運転トラックとは?ドライバー不足解消の一手
自動運転技術というと、乗用車に搭載されているイメージが強い人もいるでしょう。しかし冒頭でもお伝えしたように、実はトラックにおいても自動運転技術の研究が進んでいます。自動運転トラックの普及は、社会問題となっているトラックドライバー不足の解消に役立つとも言われています。
自動運転レベル4を実現した技術
自動車の最新技術を紹介するジャパンモビリティ―ショー2023で公開されたTuSimple社(アメリカ)の実証実験の映像は、大きな話題になりました。東名高速道路および新東名高速道路で行われた実証実験の様子で、大型トラックによる自動運転レベル4相当の実験が行われたのです。
自動運転レベルとは、自動運転の技術レベルを0~5の6段階で示す基準です。レベルごとの詳細は以下のようになっています。
レベル4は特定の条件下で完全自動運転ができる段階であり、ほとんどドライバーの操縦なしで運転ができます。これを実現できた背景には、対象までの距離を測定するLiDAR(ライダー)という技術やカメラセンサーなどを組み合わせることで、周囲360°の車両認識を可能にするTuSimple社独自の開発技術があった点が挙げられます。
今後、さらなる技術向上と環境整備によって、自動運転トラックの実用化が進んでいくと考えられます。
背景にある「物流の2024年問題」解消の一手となるか
物流の2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働規制と改正改善基準告示により、輸送能力が低下してしまうとする社会問題です。ネットショッピングの普及により急速に拡大した物流の需要を、今後は十分に満たせなくなる可能性があります。
また、物流の遅延が発生した場合、スーパーやコンビニへの物品到着が滞ってしまう恐れもあります。物流の2024年問題は、一般消費者の問題としても大きな課題として議論され続けているのです。
もし自動運転トラックの導入・運用が実現すれば、昨今叫ばれているドライバーの人材不足を解消できる可能性があります。そもそもドライバーなしでトラックを動かせるようになるため、ドライバーの人員不足を懸念する必要がなくなります。
現在は法律上、自動運転車が公道を走行することはできません。しかし、今後の法改正によって環境が整備されれば、物流業界における人手不足の問題を解決できる可能性があるのです。
自動運転技術がトラック運転手の働き方にもたらす変化とは?
自動運転トラックが普及することで、トラックの運転手の働き方には大きな変化が起こるでしょう。例えば次のような変化は、トラックドライバーの働き方改善につながると言われています。
- ドライバー不足の解消
- 長時間労働からの解放
- 配達の効率化
- 運行時の安全性向上
それぞれ詳しく説明します。
ドライバー不足の解消
自動運転トラックが普及することで、トラックドライバー不足の状況を解消できる可能性があります。厚生労働省の「統計からみるトラック運転者の仕事」によると、トラック運転手の令和4年の有効求人倍率は2.01倍となっており、全職種の有効求人倍率1.06倍を大きく上回っていることが示されています。
この背景には、ドライバーの高齢化や女性進出の遅れなどが挙げられています。
自動運転トラックの運用が実現すれば、これらの問題を解消できるかもしれません。ドライバー不足の問題が完全になくならなかったとしても、何らかの解決策につながる可能性があるでしょう。
長時間労働からの解放
自動運転トラックの普及によって、ドライバーの長時間労働が解消するという声もあります。平成27年に厚生労働省と国土交通省が行った「トラック輸送状況の実態調査結果」では、運転手1人あたりの平均労働時間は、1ヶ月で200時間を超えています。労働基準法の中でも「自動車運転者業務」は他業種よりも規制が緩和されているために起きている問題です。
自動運転トラックの普及は、そのような長時間労働の負担を大幅に削減できる可能性があります。特に長距離輸送トラックにおいて自動運転トラックが導入されれば、一般的な長時間労働のイメージを覆せる可能性があるでしょう。また、長距離輸送の必要がなくなっても、短距離輸送や宅配などの別業務に人員を回すこともできます。
配達の効率化
近年増加する荷物の配達を効率化できる可能性があります。国土交通省の「令和3年度 宅配便取扱実績について」では、輸送する荷物の量が前年比2.4%増となる49億5323万個となったことがわかっています。この状況で配達を人力のみで行うと、ルートの検索や休憩などで、スムーズな配達ができません。
もし、自動運転トラックが運用されるようになれば、特定のルートを記憶させることでわざわざ調べる手間がなくなります。また、運転手の体調や休憩時間を考慮しなくても自動運転での配送ができるため、今以上に効率的な配達が実現できるでしょう。
運行時の安全性向上
トラックの運行中に起こりうる事故を減らせる可能性があるのも、自動運転トラックの普及で期待されていることのひとつです。
トラックは、ひとたび事故を起こすと大きな被害を生みかねません。安全運転が何よりも大事である一方、長時間勤務や時間指定厳守などの状況から、事故を起こしてしまうリスクが高いのも事実です。
自動運転トラックであれば、これらのリスクを気にすることなく、安全にトラックを運行させることができます。運転手のプレッシャーや疲労などに関係しないため、安定した運行ができるでしょう。ただし、安全性を確保するには、今後の自動運転技術の発展が不可欠です。
自動運転トラックが普及したらドライバーの仕事はなくなる?
自動運転トラックが普及すると、トラックドライバーの仕事がなくなると言われることがあります。この問題に危機感を覚える人は少なくないようですが、結論から言えばなくなりません。
そもそも、トラックの運転は乗用車とは全く別物であり、乗用車以上に高度で慎重な運転が求められます。ひとたび事故を起こせば大きな被害につながりかねないため、乗用車よりも何倍も精緻で厳しい制御機構が必要です。しかし、2024年現在、無人トラックでの車庫入れや縦列駐車などの技術はまだ確立していません。つまり、完全無人での運行は実現できないのです。
また、無人走行は、止まることが少ない高速道路などの平坦な道路での運転を想定しているものです。そのため、複雑な都市部での運転に関しては、有人運転に切り替えることを想定している場合がほとんどであり、人の手が必要な状況は、現在と何ら変わらないでしょう。自動運転トラックと共生するためには、それを制御できるドライバーが必要なのです。
自動運転トラックの普及により生まれる新たな役割も
自動運転トラックが普及することで、運送業界に新たな役割が求められる可能性が指摘されています。それが自動運行従事者です。
自動運行従事者とは、トラックに乗車もしくは遠隔地から運転操作以外の業務を実施する人物のことです。現在の呼び方は仮称で、今後名称が変更される可能性があります。目的は、輸送の安全確保のためです。
現在は有識者の間で検討が重ねられている段階で、具体的な業務内容については確立されていません。しかし、自動運転トラックであっても安全性の確保は最優先事項であるため、今後求められる役割として登場する可能性は十分にあると言っても良いでしょう。
ドライバーの仕事はなくならないが役割は変わっていく
深刻化するドライバー不足に対処するため、業務の効率化は急務です。しかし、自動運転トラックの登場は、従来のトラックドライバーの仕事を奪うものではありません。むしろ熟練した技術を持ったトラックドライバーは、運送業を支えるために今後も必要な人材です。自動運転トラックを敵と見なすのではなく、共存していくパートナーと捉えましょう。
自動運転トラックの普及により、自動運行従事者のような新たな役割が求められる可能性があります。仮に運転者として求められることがなくなったとしても、最後に必要なのはそれを扱う人間です。変わっていく社会情勢の中で、自動運転トラックと人間の共存が、今以上に求められるかもしれません。