物流の2024年問題に対して、全国の運送業や荷主企業、元請業者は早急な対応を迫られています。そのなかで懸念される事態のひとつとして、荷主企業や元請業者からの不適正な取引を求められる恐れがあります。
それらを監視する役割として新たに設置されたトラックGメンは、激変するトラックドライバーの労働環境にどう影響するのでしょうか。
本記事では、トラックGメンの概要と導入された背景、権限の範囲や実際に解決した事例について解説します。トラックドライバーとして活躍している人、ドライバーへの転職を考えている人はぜひ参考にしてください。
トラックGメンとは?
トラックGメンとは、荷主企業や元請業者が、トラック事業者などに対して不適正な取引をしていないかを監視する役割を持つ人のことです。2023年7月21日に国土交通省によって新設された役割であり、全国の地方運輸局や運輸支局に162人のトラックGメンが配置されています。
荷主とは、荷物の送り主のことです。元請も同じように荷物の配送をトラック事業者に要請する企業のことで、これらを監視する役割がトラックGメンなのです。名称がややこしいかもしれませんが、トラックドライバー自体を監視する立場ではないことを覚えておきましょう。
トラックGメン創設の背景
トラックGメンの制度発足の背景には、物流の2024年問題が関係しています。トラック事業者の間では、荷主や元請からの立場の弱さから、長時間労働や低賃金での労働が常態化していました。この問題を是正するために創設されたのがトラックGメンです。
法改正が行われる2024年以降、荷主や元請がトラック事業者に対して何らかの圧力や不正な取引をはたらく恐れが懸念されています。それらに対しても、トラックGメンは有効な抑止力になりうる存在であるとされているのです。
新設されたばかりの役割ですが、今後、国土交通省内に「トラック荷主特別対策室(トラックGメン室)」を設置することも検討されています。トラックGメンは、ドライバーとトラック事業者を守る、大事な役割と言えます。
トラックGメンの権限とは?取り締まる違反行為の種類
トラックGメンは、悪質な荷主や元請業者に対して、改善を促したり是正勧告を要請したりする役割を担います。
この役割は貨物自動車運送事業法に基づくものですが、警察のような犯罪捜査権限を持っているわけではありません。あくまでも、荷主や元請業者の監視および聞き取りを行う取引調査員というポジションです。具体的には、以下のような違反行為を調査します。
長時間の荷待ち
国土交通省がWebサイト上に設置した目安箱に寄せられた荷主側の違反行為のうち、最も多かったのが長時間の荷待ちです。荷待ちとは荷物を載せるためにトラックドライバーが待機することですが、これが長時間に及ぶことがトラックドライバーの労働時間を増加させる要因と考えられています。
これらの問題に対し、トラックGメンは荷主に対して改善要請を出します。例えばトラック予約システムの適用範囲拡大や、荷下ろし時間の延長です。あくまでも一例ですが、トラックドライバーの労働環境を改善するためには、必要な措置であると言えます。
依頼にない付帯業務の強要
当初の依頼にはない付帯業務を、荷主がトラックドライバーに対して強要することも違反行為です。例えば、当初は配送のみの依頼であったものが、荷物の積み下ろしまでドライバーがやらなければならないケースがこれに該当します。また、ラベル貼りや荷物の仕分けをさせられた事例もあるようです。これらはすべて、トラックGメンの監視および働きかけの対象となります。
運賃・料金の不当な据え置き
付帯業務に次いで多いのが、運賃や料金を不当に据え置いている事例です。厚生労働省が発表した「トラックGメンの設置による荷主・元請事業者への監視体制の強化」を見ると、令和2年に告示した「標準的な運賃」の周知・浸透を促進していることがわかります。
仕分け作業量に応じた積込料の負担を荷主側に依頼しても、払ってもらえないケースがあり、ドライバーの労働環境改善につながらないとされている状況です。この状況を打開すべく、国土交通省の告示と合わせて、トラックGメンによる情報収集と改善要請が出されています。
過積載運行の要求
過積載とは、トラックの最大積載量をオーバーして積み荷を運ぶことです。道路運送車両法によって定められた法律であり、違反した場合は刑事罰の対象となります。荷主の中には、過積載を強要するケースがあり、トラックドライバーを悩ませているのです。
過積載は、法律違反であるというだけでなく、運転上のさまざまな危険もはらんでいます。例えば、ブレーキをかけても止まりにくくなったり、スピードの制御が難しくなったりするリスクがあります。トラックドライバーの安全を顧みない要求であるため、トラックGメンによる改善・是正勧告の対象となっています。
無理な配送依頼
ルートや配送期日に無理があり、トラックドライバーが労働時間を超過しなければならない依頼についても、トラックGメンの取り締まりの対象です。近年のネットショッピングの需要拡大に伴い、荷物の量が増加しています。これに対応するために長時間労働や無理な時間的ノルマを課す荷主が問題視されているのです。
荷主や元請との関係が改善しなければ、トラックドライバーの労働環境や低賃金労働の問題は解決しません。これらの問題を解決するためにも、トラックGメンの活躍は必要不可欠なのです。
トラックGメンが解決したケース
トラック運送業界の監視を担う「トラックGメン」の実績件数について、発足から3ヶ月で要請6件、働きかけ166件という数字が出ています。これは2022年度の実績と比較して4倍以上にあたり、荷主企業や元請業者に対する取り締まりの強化が顕著です。
2023年11月と12月には、繁忙期であるブラックフライデーやクリスマス商戦に合わせて「集中監視月間」として取り組みを強化しました。この時期、トラックドライバーの労働環境が悪化する恐れが高まるため、適正な取引を促すための監視が行われました。
過去の事例にも目を向け、違反行為の疑いがあるにもかかわらず改善が見られなかった荷主に対しては、初めて「勧告」を行い(2件)、違反企業として国土交通省による公表の対象となりました。
さらに、トラックGメンは働きかけや要請を通じて是正指導を徹底しており、その結果、省庁や関連機関からの調査が入るケースもありました。トラックGメンの取り組みにより、トラックドライバーの労働環境が改善されるだけでなく、新たなドライバーの参入を促す環境が整いつつあります。このように、トラックGメンの活動には今後も注目が集まります。
Gメンはトラックドライバーの労働環境を守る役割
トラックGメンは、ただ荷主や元請業者を牽制するためだけに設置された人員ではありません。設置されて日が浅いものの、実際に要請や働きかけが進んでおり、その効果は数字としてはっきりと表れています。現在のトラックドライバーの労働環境を改善するためには、トラックGメンの活躍が必要不可欠です。
物流の2024年問題の中には、トラックドライバーやトラック事業者と荷主企業が、対等な存在でなければ改善が見込めない問題もあります。今後のトラックGメンの活躍により、より一層の労働環境改善が進んでいくでしょう。ただの見張り番ではない、トラックGメンの活躍に期待が寄せられます。